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『祭』 [ショート・ショート]


 あまり祭が好きではない。
 小学生までは屋台のどんど焼きや金魚釣り、型抜き、ヨーヨーなどに夢中だった。でも中学生になると違った。サッカー部だったせいもあるが、いわゆる見知らぬ先輩というのが声をかけてきた。そのそばには同級生。祭で高揚している。「こいつがこり、サッカー部!」なんでもんもん背負った奴、紹介されにゃぁいかんのか分からなかったが、一応、頭を下げた。しかし、それは一度では無かった。腰越通りを通る間に何度、頭を下げたことか。西鎌倉の連中もいたが奴らは関係ないのか、同級生も無視している。
 私は腰越と西鎌倉の間の津村という所に住んでいたから、挨拶させられたようだ。私はこういう連中が嫌いだ。幼い頃から嫌いだった。簡単に言えば、喧嘩の匂いがしたからだ。私は平和主義で育てられたためか、喧嘩が強いとは言えない。まぁ、サッカーをやっていたおかげで喧嘩をふっかけられることもそうはなかったのだけど。絡んでくる奴はいた。

 仮にAとしよう。ナイフで同級生を刺した奴だ。理由はむかついたから、と今っぽい。こいつは私が一軒家に住んでいたからと、何かと絡んできた。おかしなものだ。埼玉の南浦和団地に住んでいた頃は一軒家に住んでいた奴を私がいじめていた。
 こいつは土木関係の仕事についたが、バブル景気に乗りアパレルの店員になって結構稼いでいたようだ。そこで線が結ばれた。広告業界にいた私に彼から仕事の依頼があった。お互いに顔も忘れている。仕事はパンフレット。かなり安い仕事だが手を抜かず丁寧にやった。しばらくして、デザイナーの知人から電話があった。
 「悪いんだけど、あの仕事降りてもいいか?」
 「えっ、デザインすれば終わりだろ?」
 「それがクレームがすごい。しかも夜中に893そのもののしつこさで電話が来る。嫁も気が狂いそうだ」
 「・・・お金か?」
 「そう、バックマージン」
 「ふぅ」
 広告業界なんてバックマージンの嵐だが、この小さな仕事でバック取られたらやっていけない。しばらく考え、その893そのもののちんぴらの上司に訴えた。とにかくここまで(すべて終わっていたが)の仕事とし、ギャラを頂き、そのちんぴらが言いがかりを付けないようにして貰った。

 今年も糞暑いのに昼から酒くらってどこから集まるのか茶髪の祭り男がガンを切る。うっとうしい奴らだ。神道ブームの影響か?
 と、腰越通りにできた新しいアイスクリーム屋にあいつがいた。普通のスラックスにポロシャツ。見た目はいいおじさんだ。ちょっと興味がわき顔を出した。
 「あぁ、こりくんかぁご無沙汰しています」私より礼儀正しい。
 「今、地方活性化としてこの腰越を担当しているんですよ。地味な漁師町だけど、しらすで人気ありますからどうにかなるんじゃないかな」
 ・・・目をジッと見つめていると、落ち着かなく揺れる。(まだ、悪いことしてるな)。そう思った私は「それじゃいいお祭りを」と頭を下げ、立ち去った。
 SNSで彼から友達申請があった。腰越の奴でパソコンやっているなんて「彼」くらいだ。面倒がなければいいが、とりあえず了解した。彼の働きはすごかった。休みもなく腰越の活性化に動いている。若い人たちも彼をしたっている。(考えすぎだったかな)。昔、悪かった奴が更生するのはあることだ。なければ死刑反対なんて意見はない。だいたい悪いことしなかった奴もいないし・・・。
 だが、私は神経質に彼との間をとった。皆は知らないだろうが、彼は同級生をナイフで刺し、893まがいの執着でバックマージンを奪おうとした。どうしても信じられなかった。
 腰越は江の島の左側にあり、鎌倉市だ。東浜は微妙に藤沢の西浜とは違う。どこかのんびりしている。そこを狙いあらゆる商店街に顔を見せ、流行りのマルシェを彼はやった。腰越じゃ最先端だ。
 日本でも有数のブラバン校、腰越中学の吹奏部も小さなコンサートを行い、腰越はだんだんと活気を帯びてきた。ボランティア同然で動いていた若者も承認欲求を満たされ嬉しそうだ。
 ・・・秋が来て、彼は違うファッションで現れた。ピチピチの流行のスーツにサングラス。相変わらずの愛嬌ある声におどしが混ざった。
 「すみません。こちらも動いてましてお金が必要なんですよ。随分お宅も潤ったでしょ?ねぇ?」
 確かに小さな商店街になんて目を向けなかった行政や市と違い彼は商店街が儲かるシステムを作った。お店としても逆らうわけにはいかない。ネットでお店を紹介して貰い、イヴェントを告知してくれたことに感謝している。お金なんかかかっていないのに。
 若者たちは混乱していたが、不況の中ろくな職につけなかったので、ついていくしかなかった。彼の会社は小さな不動産屋だった。そうか・・・これからどんどん萎んでいくこの街の小さな商店に恩を売って、将来的に安く土地を買い上げ、次のお金持ちに売りさばく気か。簡単な仕組みだが、腰越という漁師町では義理人情が大切にされる。もう、彼に逆らえるものはいない。
 だが、何時の時代にもちんぴらはいる。華やかな腰越と違い没落し住民のほとんどがお年寄りの西鎌倉で鬱憤をため込みヒッキーしている奴を私は数人知っていた。おとなしい奴らばかりだが切れやすい。体格のいい奴にナイフの持ち方を教えた。
 後は「彼」の運命次第だ。祭の後の哀しみは必ずやってくる。(終)

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