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鬼畜~覚書~ [小説]

約一年ほど前から続いていたのだが・・・そう母親の憂鬱。
あまりにくだらないのでほっておいたが、
去年の11月に正式に回覧板がまわってきて、
母親は狂って来た。
すごくつまらないことですみませんが、自治会の役員の番がまわってきたのだ。
会社勤めなどで、社会に出た人なら、
面倒だが鬱になるなんてことはないだろう。
だが、母親は基本、専業主婦。
しかも性格上、人に頼ってしまうタイプ。
父親はいつも苦労していた。
実は、ウチの前に順番のまわる家があり、
二人兄弟が住んでいるが、最近、見ない。
「いないから回覧板も飛ばしている」
ということからウチに一年早くまわってきたのだ。
で、母親の頭の中で渦巻くのは、
とてもじゃないが一番簡単な自治会館のカギを預かる役以外できない、
ということだ。
みんな会長とかは嫌がるから最後はくじ引きらしい。
だが、86歳の母親だ。難しい役は来ないだろう。
そして「なぜ?」そう貴方は思っただろう。
私がやればいいんじゃないの?と。
アラカンはこのご時世、若い方だしなんでもできるだろう、と。
更に、私には兄がいる。みっつ上。安倍総理と同じ年だ。
だから、兄か私がやればいいんじゃない?と思うのが普通だ。
ところが家庭にはそれぞれの事情がある。
まず私は心臓の障がい者だ。1級。
更に兄は見た目はわからないが、
人間嫌いでどうしようもない。
そのことを分かっている母は、
年寄りの自分がやれば一番楽な役になるだろう、
と思っていたらしい。
だが、期日がせまることで、
焦って来たらしい。
本当に、自分ができるのだろうか?
みんな嫌がり、くじ引きで他の役になったら・・・。
この辺りから本格的に暗くなってきた。
毎日、その話で去年の末あたりからご飯は食わない、
眠れないで随分、痩せた。
だが、そう簡単に私や兄がやるとは言えなかった。
これも家庭の事情だが、
兄はマザコンで守られて生きてきた。
母親に守られていたのだから、自分がやるなんて思ってもいない。
私はどちらかと言うと、
そういうことをしてきた人間だ.
母親の従妹の会や父親の葬儀、兄の癌・・・みんな私が仕切った。
だから、兄弟間の差別から「うっ憤」があった。
やるなら長男である兄がやるべきだ。
これが人間として最後のプライドを守れるものだ!と。
だが、兄が言う訳はない。
結局、実態は鬼畜の母親。私にやれ!と言ってきた。
「まず、兄貴だろ?」
「あいつにはできない」
「できなくしたのはおまえだろ。最後のチャンスをやれよ」
ちょうど、兄が部屋に入ってきたので、
「自治会の役員だけど、くじ引きで鍵の管理以外だったら、ふたりでやるか?」と聞いた。
珍しい返事「うん」。
これで普通は解決のはずだが、
母親はここから迷走の旅に出る。
妹も巻き込まれ、包括センターまで出動した。
結果、今の役員と次になるであろう家に手紙を出した。
現在の会長さんも了解してだ。
自治会などの役員をまず、
80歳越えたお年寄りになんかやらせないのが普通らしい。
それに障碍者にもやらせないらしい。
何かあったら大変だからだ。
で、これでもう大丈夫なはずだが、
この家の事情を深く考えてしまった母親は
幽霊のように閉じこもりになり、
うつ病の薬も飲むようになった。
だが、全てが演技なのは分かっている。
妹と私がどれだけの暴言でDVされ心を痛めたか・・・。
今日、ようやく新しくやる役員も決まった。
でもこれから母親は自分の老後をいかに楽に過ごせるか、
ということに執着する。
可愛い兄のために売らないと言っていた家も売って、
子供たちが路頭に迷おうと自分の安全と安心を
望むことにしたようだ。
そんなことはどうでもいいが、
私たちにその手続きをやらせるんだから驚きだ。
動きの早い妹に促され私と妹はあさってから
その関係の役所に相談に行く。
鬼畜たる母親は孤独に死ぬのが一番だ。
介護などの手続きはしよう。
だがもう話したくもない。

「逃げる」。
やっと鬼畜から逃げる時が来たようだ。
兄も。

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